一番正しい距離









「来ちゃった。」




開けられた扉の向こうには不機嫌そうな顔。
その表情はあきれたような、少し驚きを混ぜたような表情だった。


「こんな朝っぱらからなんのご用ですか?
金田一くん。」

「…いや、こないだ借りた推理小説の続きが気になってさ。」


様子を伺うように上目遣いで彼を見ると
彼は小さくため息を吐いて、「どうぞ」と部屋に入るように促した。

朝も早くに押しかけたので
寝起きのボサボサの無防備な彼を想像してたんだけど
普段着らしい彼の服装はムカつくほど小奇麗だった。
そんな背中を恨めしそうに見つめながら
スリッパを履き、ペタペタ音をさせて廊下を歩く。


「ここに座って待っててください。
ご希望の本を持ってきますから。」



部屋も本人同様綺麗に整頓されていた。
ホコリ一つ落ちてなさそうな広い部屋。
高そうな高そうなソファーに机。
俺の家のテレビより二倍以上デカイテレビ。



「なんかムカつく。」



「折角の休日に連絡なしに訪れた私のほうが『ムカついて』ますよ。」



頭の上から突然声がしてビクっとする。
恐る恐る振り向くと本を腕に抱えた明智さんが
眉間にしわを寄せて立っていた。


「……俺すぐ帰るよ。」

「折角寒い中本を読みたいがためにやって来てくれたんですから。
コーヒーくらいご馳走しますよ。」


ふっと唇に笑みを浮かべながらキッチンへ入っていく。
ここへ来た動機としてはまんざらでもないらしい。


「いいのー?誰か他の人くるんじゃないのー?」


女の人とか…。

おちゃらけた口調で聞きながら肝心な…
一番聞きたい言葉を飲み込む。



「…来ませんよ。
今日は一人映画鑑賞でもしようかと思っていたくらいです。」

「ふぅん…。」



なんとなく緩んでいく口を叱咤しつつも
適当に、まるで気にしていないかのように相槌をうつ。
「さみしーね、明智ちゃんはぁ〜」なんて相手をからかうと
「砂糖じゃなく塩をいれましょうか?」なんて言われた。





その後は、本が重いとわがままを言って
映画鑑賞をするはずだった明智さんの予定を
読書に変更させて…。





ソファーに座った明智さんと寝そべる俺。
偶に、くだらない言い合いをしながら…。