「すまないが、これを出木杉くんに渡してくれんかね?」
廊下を歩いていた僕に声をかけたのは
あんまり知らない先生だった。
出来杉は委員会とかやってるから
色んな先生と仲が良いみたい・・・。
「はい。分かりました。」
出来杉はちょっと苦手だけど
先生の頼みを断るわけにはいかないもんな・・・。
なんだかよく分からないプリントの束を受け取り
僕は教室に向かった。





ガラ・・・。

出木杉は本を読んでいた。
昼休みなんだから外で遊ぶとかすればいいのに。
僕も中で遊ぶ方が好きだけど・・・。

「で、出木杉・・・」
出木杉はゆっくりと僕の方を向きかえって
「なんだい?のび太くん。」


「出木杉・・・?」
なんだか・・・
なんだかいつもと声が違う気がする・・・?
気のせいかな・・・。
「?どうしたんだい?のび太くん」
気がつけば出来杉は僕のすぐ近くに来ていた。
僕は目線をなんとなくあわす事も出来ず
「あ、あの先生がこれを・・・出来杉にだってさ。」
プリントを渡してそそくさと自分の席に戻ってしまった。






出木杉が声がなんとなく違うのは僕の気のせいではなかったみたい。
国語の時間に教科書を読んでいる出木杉の声は
やっぱりいつもより低めで
まるで違う人みたいだった。

「ねぇしずかちゃん・・・出木杉の声・・・なんか変じゃない?」
何故か僕はずっと気になっていて
でも本人に聞くわけにもいかず、
僕はしずかちゃんに疑問を投げかけてみた。
「出木杉さん?」
「うん。風邪でも引いたのかな?なんとなく声が違うみたい・・・なんだけど」
すると、しずかちゃんは一瞬目を丸くして
クスクスと笑いはじめた。
僕はなにがなんだか分からなくて
ビックリしてしずかちゃんを見つめた。
「あ、ごめんなさい。のび太さん。・・・あれはね、風邪じゃないと思うわ。」
「へ?」
風邪じゃないんだ・・・なんだ。
ってなにほっとしてるんだよ。僕は!!

ん?風邪じゃないとしたら・・・
「風邪じゃないとしたらなんなの?」
「ええ。あれは風邪じゃなくて声変わりよ。」
「こえがわり?」
「ママが言ってたわ。男の子はね、何回か声変わりするものなんだって
出木杉さんだけじゃなくて・・・のび太さんもいつか。
そうして大人の人のような低い声になるそうよ。」
「へぇ・・・」
声変わりか・・・。
だから出木杉の声変だったんだ。
僕もいつか出木杉みたいに声が変わるんだろうか。






「のび太くん」
放課後、出木杉が僕に声をかけてきた。
やっぱりその声はいつもよりちょっと低くて・・・
「なぁに?」
僕は精一杯いつもと同じふりをして出来杉の顔を見た。
なんだか嬉しそうな顔で出木杉はニコニコ笑っている。
なんでだろう?・・・と出木杉をじっと見ていると
「のび太くん。今日僕が声、ちょっと変だから心配してくれたんだって?」
「へ?!?!」
「しずかちゃんから聞いたんだ。」
し、しずかちゃん・・・!
なんで出木杉に話しちゃうんだよ!
僕は恥ずかしくて、恥ずかしくて、
いつもは大好きなしずかちゃんのことを
ちょっと嫌いになってしまうくらい
恥ずかしかった。
出木杉は相変わらずニコニコして

「嬉しかったよ。有難う。」
と、言った。
「ど、どういたしました・・・」
赤面しながら僕はとんちんかんなことを言って
その後ぐるぐるした状態のなかで
なぜか出木杉と途中まで一緒に帰った。














声変わり・・・早いですかね・・・(笑)
出木杉は早熟な子なんですよ(誤魔化し)