その手のぬくもりを





「君が昨日の話の子だったんだね。」


やっと出木杉は泣いている彼女を見てゆっくりと話す。
彼女は一瞬ビクっとしたように肩を震わせた。



「昨日も言ったんだけど、僕はね…他に好きな人がいるんだ。
それは君じゃない。


僕の大切な友人を泣かす子って…ちょっと、ね。」




ごめんね、と軽く謝りながら出木杉ははっきりと言った。
彼女は再び目に涙をいっぱい溜めて机に突っ伏し、
クラスの人達はその光景を見て首をかしげていた。
「結局なんだったんだ?」というように。



出木杉は再び僕の元にやってきた。
そして腕を掴むと少し強い力で僕を引っ張ると教室から連れ出した。


え?と不思議にも思ったけど、僕自身あの教室にいたくなかったので
ちょっと助かったな、なんて考えながら
その手を握り返した。











―――キーンコーンカーン…








「チャイムが鳴ってるけど…いいの…?」

「うん、副委員長に先生に僕と野比くんはちょっと保健室に行ってきますって
言っておいたから。」


あ、そういえば確か教室を出る前に副委員長に言ってたな、なんて
思い出しながら僕は少し笑ってしまった。
出木杉はすぐに気づいて、何?と聞いてくる。

「いや、出木杉という優等生がこんなことするなんて…って思ったら…
先生たち吃驚するんじゃない?」


と僕が言うと、目をぱちくりして
そしてふふっと笑った。

「…伊達に優等生はやってないからね。
教師も一時間くらいならサボったって気にも留めないさ。」





ははは、と二人で顔を見合わせて笑った。
だって、あまりにも出木杉がらしくない事をいうもんだから。





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